道具の感度を上げる。これは釣り人にとって一つの重要なテーマである。
道具の感度を上げる一つの手法として、なるべく繊細なタックルで勝負するというものがある。繊細なタックルを構築する上で真っ先に思い浮かぶのはラインシステムを細くすることである。海中という不可視部分からより多くのインフォメーションを得るためには極力雑音を削ぎ落とさなければならない。伝達されるインフォメーションをより鮮明に捉えるには繊細なタックルが必要であることは言うまでもない。ラインシステムにおいては、ラインの伸びが少ないほど魚信は明確に伝わり、ラインは細いほど潮流の影響を受けにくい。しかしながら、細いラインシステムは、言わずもがな強度とのトレードオフとなる。
釣り人はしばしばラインシテムの強度と感度の狭間で苦悩する。ここのポイントは潮流の影響が大きいからなるべく細いラインを使いたいが、ラインブレイクが心配だ、というように。
そこで今回は、PEラインの強度について考えてみる。
果たして、PEライン0.6号で10kgのブリは獲れるのだろうか。感覚的には、多分無理だろうということは想像できる。では、このことを数値化してみよう。
単純な例を示す。
PEラインの強度は比較的細めのラインでは号数×20倍で示される。よって、PEライン0.6号の強度は0.6×20=12LBSである。LBSはポンド(LB)の複数形で、ヤードポンド法における質量の単位である。LBSを国際単位系のキログラム(kg)に換算すると、1LB≒0.454kgとなる。したがってPE0.6号の強度は12✕0.454≒5.45kgである。
強度が5.45kg...? kg(キログラム)は質量の単位である。強度が5.45kgとはいったいどういう意味だろうか。10kgのブリが掛かったら5.45-10=-4.55。強度がマイナスになるからラインブレイクすると考えるのだろうか。少し違う。強度は力の単位N(ニュートン)を用いて考える必要がある。強度が5.45kgというのは、地球上でPEラインに錘を吊るした時に、質量5.45kgの錘までは耐えうるがそれを超えると破断する強度ということである。なお、ポンドクラスラインとポンドテストラインで破断強度の考え方が異なるが、本稿ではその説明は割愛する。力は質量×加速度で表されるので、0.6号のPEラインの破断強度は、重力加速度を9.8m/s^2とすると、F=5.45×9.8=53Nとなる。一方、PEラインがブリから受ける荷重はどのように考えたらよいだろうか。ブリの質量を10kgとして、その平均の加速度を11m/s^2とすると、PEラインがブリから受ける荷重はF=10×11=110Nである。ブリの加速度について補足する。ブリの最高速度は40km/hとされる。ブリがフッキング後、反転し、速度0m/sから1秒後に40km/h、すなわち11m/sに達すると想定し、平均の加速度を11m/s^2と仮定したものである。なお、今回の考察は簡便のため、ドラグ設定は考慮しない。また、力積も考えない。
下表にPEラインの単位断面積あたりの引張力に対する許容応力(引張許容応力度)とブリの荷重、さらに、両者から求めた安全率を示す。安全率はブリの引張応力度÷ラインの許容引張応力度で求める。理論上、安全率が1未満であればラインは引張応力によって破断し、1以上であれば破断しない。
上表から、PEライン0.6号では安全率が1を下回り、ラインは破断することがわかる。よって、PE0.6号では10kgのブリを獲ることは極めて困難であると結論付けられる。安全率が1を上回るのはPE1.5号以上となった。
経験上、ブリのジギングにおいては、PEラインは3号付近を使うことが一般的である。このことから、安全率が2を上回るようラインシステムを構築すれば、確実にブリを獲れそうである。
実釣では、PEラインとショックリーダーの結束部分の強度低下や、根ずれ、その他に起因するラインの損傷による強度低下など、さまざまな要因が複雑に絡みあって、そのラインが破断するかしないかという話になるのではあるが、上表によって一定の目安を示すことができたと思う。